162人が本棚に入れています
本棚に追加
#
「おはよう、リン」
昨夜から雨が降り続いているため、今日はじめじめとした朝を迎えた。
リンはいつも自然と朝5時を過ぎた辺りで目が覚める。基本的に起きるのは早いが寝るのは遅く、日が回ってからだ。しかしリン本人はそれが良いらしい。
今日もいつもの時間に起きたのでリビングへ向かうと、そこには既に、昨日の夕方に訪れた名失者の青年が居た。
「おはようお兄さん、早いんだね」
「ああ、何だか自然と目が覚めて……勝手に寛がせてもらってる」
「良いよ、自分の家だと思ってね」
「ありがとな」
青年は歯を見せるようにニカッと笑うと視線をリンから窓の外へと移した。
リンの瞳に映る彼の横顔、窓ガラスに映るその表情。青年は困惑していた昨日とは一変、落ち着いているが、何かを考えているようだった。
雨を気にしているのか、はたまた『雨を気にする自分』を気にしているのか。いくらリンが仕事で大勢の名失者と関わってきたといえども、青年が何を考えているのかは解らない。
「お兄さん」
「……ん?」
少しだけ訪れた静寂。
「今日、名前に案内するね」
「……おう、頼むな」
最初のコメントを投稿しよう!