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暖炉のお陰で部屋は暖まり、リンは睡魔によって段々と瞼が閉じ始めていた。はっきりしない意識の中で読み掛けのページに栞を挟み、本を閉じて膝の上に乗せそのまま眠りに入ろうとした。
が、
ピロリロッ、……ピロリロッ
部屋の何処からか聞こえてきた音により夢の世界への旅立ちは阻まれた。
リンはその音のした物――木製のテーブルの上にある拳大の青く丸い石――に近付くと、上からそれを覗き込んだ。
「名失者(ゼロ)が来るのかあ」
拳大のその石、正式名称は『名失者通達機』である。その名の通り名失者が来ることを自動で知らせてくれる物で、原理は不明だが石に数字が浮かび上がる。その数字はゼロが来るまでの時間だ。
(30分後……どんな人だろう?)
通達機には30とあった。
振り返って玄関の扉を見ながら、リンはまだ見ぬ名失者を思い浮かべる。まだ年齢や性別もわからないが、やはり気になるものだ。
そして来るまで読み掛けの本を読もうと、また暖炉の前の椅子に腰掛けた。
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