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青年は体内をじんわり温めるように、受け取ったミルクを一口二口と飲み、それからリンを見た。
「訊いていいかな……?」
「“ここ”のことと、僕のことかな」
青年は申し訳なさそうに頷いた。
「大丈夫、自己紹介するね。僕はリン、ここネームの地でネーム・コンダクターをしてるんだ。簡単に言えば、お兄さんが名前を取り戻すための案内係だよ」
青年はネームと聞き、目を見開いて驚いた。それもそうだろう、ネームは誰もその場所を知らない噂の土地でしかなく、云わば幻の地なのだから。
「……リンは、ここに住んでるのか?」
「うん。生まれも育ちもネームだよ。ネーム・コンダクターだけの土地なんだけど、今は僕しかいないから独り占め状態だよ」
リンはそう言って苦笑した。
ネームは広さが把握されておらず、建物はリンの家一軒のみという寂しい土地だ。しかし以前は人もいて、店もあった小さな町だった。
「そう、か」
「ちょっと寂しいから、お兄さんにしてみれば不謹慎かも知れないけど……うん。誰か来てくれることが嬉しいんだよね」
青年はリンの発言に対して不思議がるように少しだけ呆けた。それを見て、そして今までの会話の中で、リンは彼のゼロ症候群の状況を把握する。
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