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「悪いな、壮介。付き合わせて。でも、こんなこと頼める奴お前くらいしかいないからさ。」
「別に気にすんなって。
どうせ今日は塾休みだし。
俺らダチだろ?」
恐縮する憲哉に、俺はそう言って憲哉の肩を軽くポンっと叩いた。
放課後のこと。俺は憲哉と共に、憲哉の母親が入院する病院にやってきた。
憲哉が一人ではなんだか行きにくいと言うので、今日はたまたま塾が休みであった俺が付き添いで来たというわけだ。
「お袋さん、持病再発で入院したって言ってたよな?
持病って…何?」
「逆流性食道炎ってわかるか?
食道が炎症起こして、食べ物を飲み下すこと、つまり燕下(えんか)が出来なくなるんだよ。
だから吐いてしまうんだ。食べた物全部。」
「そうか…。」
「この前、吐き戻しがまた起こってさ。苦しそうにしてたから、病院連れてったらそのまま入院しちまった。」
話をしながら病棟を進んでいくと、ある病室の前で憲哉が立ち止まった。
病室の扉のプレートに目をやると、“塚崎哉依子”(つかさきやえこ)と書かれていた。
「ここだ。」
憲哉が先だって扉を開ける。
「よ、お袋。」
「あら、憲ちゃんが来てくれるなんて珍しいじゃない。」
ベッドの上には、いかにも優しそうな雰囲気の女性がいた。
憲哉の顔を見ると、にこやかに微笑んだ。
「たまには来てやろうと思ってさ。お袋の顔見たかったし。」
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