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「やっぱり…。
一人でこんなとこ歩いてたら危ないよ。送るから、病室教えて?」
俺はなんとか彼女を説得し、病室を聞き出した。
彼女は、俺と歩いている間、一言も喋ろうとしなかった。
俺は彼女を気遣い、エレベーター乗るよとか、段差があるよとか、いろいろと話しかけてみたのだが、彼女は答えなかった。ただ俺の学ランの裾をしっかり握って歩くだけだった。
俺は病室を探しあて、扉を開けた。
「病室、着いたよ」
病室に入り、俺はベッドに彼女の手を触れさせてから、ゆっくりと彼女をベッドに座らせた。
「大丈夫?」
「…ありがとう」
俺が手を離したとき、彼女はやっと口を開いた。
「いいよ。ぶつかっちゃったから、お詫び。」
「お詫び?」
「俺の不注意で君のこと怪我させそうになったからさ。このくらいさせてよ。
じゃあ、俺帰るね。」
俺はそう言って去ろうとした。
でもその時、
彼女の声が俺を呼びとめた。
「…待って!」
「えっ?」
「あなたの名前…教えて。」
「名前…?」
「そう、あなたの名前。」
突然の質問に、俺は正直驚いたが、やがて静かに答えた。
「俺は、神坂壮介。君は?」
「私は、羽澤光姫(はざわみき)。」
「光姫ちゃん…か。
ねぇ、俺、またここ来てもいいかな?」
「はい。
また、来てください。」
「わかった。じゃあまた。」
俺はこう言って病室を出た。
これが、光姫との出会いだったんだ。
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