出会い

6/7
前へ
/41ページ
次へ
「やっぱり…。 一人でこんなとこ歩いてたら危ないよ。送るから、病室教えて?」 俺はなんとか彼女を説得し、病室を聞き出した。 彼女は、俺と歩いている間、一言も喋ろうとしなかった。 俺は彼女を気遣い、エレベーター乗るよとか、段差があるよとか、いろいろと話しかけてみたのだが、彼女は答えなかった。ただ俺の学ランの裾をしっかり握って歩くだけだった。 俺は病室を探しあて、扉を開けた。 「病室、着いたよ」 病室に入り、俺はベッドに彼女の手を触れさせてから、ゆっくりと彼女をベッドに座らせた。 「大丈夫?」 「…ありがとう」 俺が手を離したとき、彼女はやっと口を開いた。 「いいよ。ぶつかっちゃったから、お詫び。」 「お詫び?」 「俺の不注意で君のこと怪我させそうになったからさ。このくらいさせてよ。 じゃあ、俺帰るね。」 俺はそう言って去ろうとした。 でもその時、 彼女の声が俺を呼びとめた。 「…待って!」 「えっ?」 「あなたの名前…教えて。」 「名前…?」 「そう、あなたの名前。」 突然の質問に、俺は正直驚いたが、やがて静かに答えた。 「俺は、神坂壮介。君は?」 「私は、羽澤光姫(はざわみき)。」 「光姫ちゃん…か。 ねぇ、俺、またここ来てもいいかな?」 「はい。 また、来てください。」 「わかった。じゃあまた。」 俺はこう言って病室を出た。 これが、光姫との出会いだったんだ。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加