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◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
夜。
人工の光に彩られ、区画された空間を、金属の巨鳥が、甲高い哭き声をあげながら舞い上がり、そして舞い降りる。
新東京国際空港第一ターミナル一階到着ロビー。
海外旅行にしては意外なほど少ない荷物を手にした一人の少年が、税関を抜けてから、ぐるりと辺りを見回した。
癖のない金色の髪に、ヘイゼルの瞳。色白の肌は、どこか陶器を思わせるほど滑らかだ。
十代半ばと思われるその顔立ちは、まだ幼さを残し、夢見る者のような淡い微笑みを浮かべている。
寄宿舎学校の制服を思わせるジャケットが、その育ちのよさそうな容姿によく似合っていた。
「――アラン・ラクロワか?」
そう声をかけられ、少年は振り向いた。
そして、声をかけてきた相手が、自分の期待していた人物とは違っていたためか、かすかに首をかしげる。
少年に声をかけてきたのは、やはり、白人の男だった。
灰色のコートをまとった、二十代とも三十代とも取れる、痩せた長身の男である。淡い褐色の髪に、鋭い光を湛えた氷のような薄青い瞳。まるで、刃物で削いだように薄く高い鼻とこけた頬が、より冷たい印象を人に与える。
「あなたは、誰ですか?」
アランと呼ばれた少年が、そのバラ色の唇に相応しい柔らかな声で、訊いた。
「ユーリー・グロボフ」
男の名乗りに、少年が少し目を見開く。
「あなたがユーリー・グロボフ? ダンピールの?」
「その言葉を口にするな」
低く抑えられた声で、男――ユーリーが言った。
「あ……」
その冷たい迫力に圧倒されたように、少年――アランが一歩退く。
「……しかし、『舞踏会』から派遣されたのが、お前のような半人前とはな」
ユーリーの薄い唇が、笑みの形に歪んだ。そのあからさまな嘲弄に、アランが、むっと眉を怒らせる。
「どうした? 牙を剥いたらどうだ、吸血鬼」
ユーリーは、余裕のある態度で、ゆったりとした薄手のコートの懐に、手を差し入れた。
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