一章─カインの花嫁─

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 「こ、ここで、仕掛ける気ですか?」  アランは、驚いた顔で、周囲を見回した。様々な国籍の通行人たちが、ちらちらとこちらを見ながらも、通り過ぎていく。 「一般人の巻き添えを恐れるか? 吸血鬼ともあろう者が」 「僕は――僕たちは、見境なしの殺人鬼じゃ、ありませんから」 「下らんことを言う奴だ。所詮は、寄生虫の倫理だな」  言いながら、ユーリーが、右手を懐から抜こうとする。  アランの顔に、緊張が走った。 「!」  その時、ユーリーの右肩を、太い指が後から制止した。 「やめとけやめとけ」  ユーリーの肩を、容赦のない力で掴みながら言ったその声は、日本語だった。 「――っ!」  アランが、第三の男の出現を好機と見て、身を翻す。 「待て――」 「だからやめておけと言ってるだろうが」  手を振り解いてアランを追おうとするユーリーの襟首を、鉤状に曲がった男の指が、ぐい、と後ろからつまんだ。 「邪魔をするな!」  振り返ったユーリーが、自らを止めた男を睨む。  巨漢だった。  身長二メートル前後。その巨体に見合った圧倒的な筋肉が、服を内側から圧している。  短く刈った頭を、太い指で掻きながら、その大きな男は薄く笑っていた。  嘲笑ではない。冷たい怒りに燃えるユーリーをどう扱っていいか分からないといったような、困ったような笑みだ。  細い目に、愛嬌のある皺の刻まれた頬と、自然石のようにごつごつとした顎。  そんな顔を、ユーリーが、薄青色の瞳で睨みつけている。
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