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「こ、ここで、仕掛ける気ですか?」
アランは、驚いた顔で、周囲を見回した。様々な国籍の通行人たちが、ちらちらとこちらを見ながらも、通り過ぎていく。
「一般人の巻き添えを恐れるか? 吸血鬼ともあろう者が」
「僕は――僕たちは、見境なしの殺人鬼じゃ、ありませんから」
「下らんことを言う奴だ。所詮は、寄生虫の倫理だな」
言いながら、ユーリーが、右手を懐から抜こうとする。
アランの顔に、緊張が走った。
「!」
その時、ユーリーの右肩を、太い指が後から制止した。
「やめとけやめとけ」
ユーリーの肩を、容赦のない力で掴みながら言ったその声は、日本語だった。
「――っ!」
アランが、第三の男の出現を好機と見て、身を翻す。
「待て――」
「だからやめておけと言ってるだろうが」
手を振り解いてアランを追おうとするユーリーの襟首を、鉤状に曲がった男の指が、ぐい、と後ろからつまんだ。
「邪魔をするな!」
振り返ったユーリーが、自らを止めた男を睨む。
巨漢だった。
身長二メートル前後。その巨体に見合った圧倒的な筋肉が、服を内側から圧している。
短く刈った頭を、太い指で掻きながら、その大きな男は薄く笑っていた。
嘲笑ではない。冷たい怒りに燃えるユーリーをどう扱っていいか分からないといったような、困ったような笑みだ。
細い目に、愛嬌のある皺の刻まれた頬と、自然石のようにごつごつとした顎。
そんな顔を、ユーリーが、薄青色の瞳で睨みつけている。
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