第一幕 ~桜の園~

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ヘッドライン、最後の項目に気が重くなる。 正当な主張も手段が間違えば犯罪になる。そんなことがいい大人になっても解らないのかと、相手も見えないのに憤る。 とは言え、一番や二番の様なニュースを見れば、テロの一つも起こしたくなる気持ちも解らなくもない。 火星植民者の子孫としての気持ちと、治安をあづかる公僕としての気持ちがせめぎあい、毎度のように結論が出ない。 ふと、車窓を見ると、街路に植えられた木蓮の白い花弁が一つ、二つと落ちてゆくのが見えた。 今から火星の暦で百年前、地球の暦では二百年前なら考えられない光景だったに違いない。 バクテリアの生存さえ許されなかった低気圧、低気温、高放射線の不毛の星を生命溢れる星に変えたのは、地球で口を開けて待っているだけのアーシアン(地球人)ではなく、劣悪な環境に耐え忍び、命を削ってがんばりぬいたマーシアン(火星人)なのだ。 エリナが、間違いないく確信できるのは、その点だけだった。
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