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「…畜生!!」
バサ、と音をたてて、斗哉は新聞記事がまとめられた資料を机に投げた。
静かな室内にその声と音が響き、読書にふける何人かの視線をさらった。
ここは市立図書館。
今までの神隠し事件を調べていたが…場所、時刻など関連性に乏しい。歪みのパターンをそこから推測するのは難解だった。
斗哉のイライラは頂点に達していた。
考えてみれば、警察という団体ですら解けない問題を、一端の高校生に解けるはずがない。
「斗哉くん…声大きいよ!」
沙和は、口の前で人差し指を立てるジェスチャーをして見せた。
斗哉はちら、とそれを視界に入れると、小さく舌打ちをした。
「お前…事の重大さがわかってんのかよ。その平和そうなツラみてるとイライラすんだよ!」
「…斗哉くん。少し、落ち着いて考えよ…」
沙和が差し出した手を、払い除けた。
「うるせぇ!香子がいなくなってもそんな呑気にしてる奴に言われる筋合いはねぇよ!」
払われた手を、見つめながら…静かに沙和は言った。
「いい加減にしてよ。香子ちゃんがいなくなって、僕が呑気にしていられると思うの?」
普段聞かない声に、斗哉は視線を合わせられなかった。
「イライラしてるのは斗哉くんだけじゃないんだよ。少し頭冷やしなよ。」
そう言って、沙和は一人図書館を後にした。
静寂と、斗哉の後悔だけが、残された。
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