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家の中に入ると、夕飯の香りが漂ってきた。
「斗哉、おかえり!もうすぐご飯できるからね!」
夕飯の支度途中であろう母親が、エプロン姿で顔を覗かせた。
若くして長男の斗哉を産んだせいもあるが、元来童顔で背が低いため、まだあどけなさが残っている。
しかし、家事に関しては手を抜くことなく、我が母ながらできた母親だと思う。
「あれ?父さんまだ帰ってないの?」
キッチンに戻って料理の続きを始めた母に尋ねる。
「今日は電話入ってないし…きっともうすぐ帰ってくると思うけど?」
「ふーん。」
父は、ごく普通のサラリーマン。
実は、斗哉にとっては二人目の父親だ。正確に言うと、義理の父ということになる。
実際に血の繋がった父親は、斗哉が幼児の頃に、病気で他界していた。
それからしばらく女手ひとつで斗哉は育てられたが、中学の頃に再婚し、今に至る。
実際、母が今の父と知り合ったのはもう少し前のことらしかったが、そこは母親から斗哉への配慮だろう。
中学校生活が落ち着くまで、その話を持ち出すことはなかった。
斗哉は、再婚の話を聞いても特別反対はしなかった。
実の父を想うとなんとなく寂しい気持ちにはなったが、それまでの母の頑張りを知っていたし、新しい父の印象も良かった。
優しそうで、仕事熱心。器用ではないが、家庭を大切にするタイプだと思った。
この人になら、母親を任せてもいいと思えた。
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