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その夜、妙な嫌を見た。
春の穏やかな日差しの中、一人の少女が胡乱な足取りで廃墟の立ち並ぶ荒れ果てた道無き道を歩いている。
その小さく細い腕には、男の生首が抱かれていた。まだ幼いとも形容出来る少女には不釣り合い過ぎる荷物にも関わらず、彼女の表情は見ている此方が穏やかになれそうな程に幸せそうだった。
首を抱いて歩き続ける少女を取り巻く季節は何時の間にか移ろい、日差しは夏の厳しいそれとなっている。
当然と云えば其れまでだが、腕の中の青年はやがて劣化し、異臭を放つ肉塊となって行く。それでも少女は幸せそうだった。その腐敗現象さえも愛おしいと云わんばかりだった。
しかし、その首が完全に白骨化した時、少女は歩くのを止めてしまった。
急に表情が翳った。
慈愛に充ちていた筈の眼差しが、何か恐ろしいものを見る其れへと変貌した。
少女の腕から髑髏が滑り落ちる。渇いた音を立てて砂にまみれる其れに続く様に、彼女の体もまた膝から崩れ落ちた。
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