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美しい筈の桜を目にした途端、寒気がした。
ぬるついてひやりとした何かが足元から全身を這い上がって来る様な、蛇が自分の首をゆっくりと締め付ける様な、只管不快な感覚が斑に肉体を冒す。
冷や汗が止まらない。夜中に起きた、あの嘔吐感に酷似したものがせり上がって来る。
この場から逃げたい。清潔な筈の此の保健室の真っ白な天井も壁も床もベッドも、果ては自分自身すら汚らわしいものに感じる。
其れなのに体が動かない。
桜の木から目が離せられない。
思考が定まらない。
震えが止まらない。
頭の中が、真っ白だ。
今迄、過不足無くそしてそつなく築いてきた自分の足元が揺らいだ気がした。
喪失が生じて仕舞う。
空洞化した何かを埋めなくては。
あの少女も、こんな気持ちだったのだろうか?
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