第一章~ビーストハンター~

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―― ヘスティア大陸南東 コルマ山脈 森林内 ――  鬱蒼と繁った樹木、鳥の鳴き声が高らかに響き獣の吐息が直ぐ近くに感じられる――それほど、空に届く勢いで気の遠くなるような年月を経て育った木々は日光を遮り、空気も歪ませるまでに不気味な姿を形作っていた。  その歪な地形に対応しているかの様に入り組んだ木々の間を、巧みに縫うように走って行く馬車。 まるで自分の仕事に誇りを持っているかのように猛進する二頭の馬車馬を、訝しげに見つめる手綱を握り締める男。 こいつら何をこんなに頑張っているのだろう、何か変な物を食わせた覚えは無いのだが……いつも以上に奮迅する馬を怪しみそう思いはする物の、あまりにも速すぎて頭部を覆っているバンダナが飛ばないように気をつける事と手綱を手放してしまわない様に気をつけるので精一杯だった彼には、馬を落ち着かせる事など容易ではなかったのだ。   しかし、彼がこの馬達が何を急いでいるのか理解するのにそう時間は掛からなかった。 何処からか森中に響き渡るような獣の遠吠えが聞こえ、馬の勢いに怖じ気付き若干強張っていたやや上がりぎみの肩がより固くなってしまった。 考えて見れば、こんな不気味な森を早く抜け出すに越したことはない。 ちんけな商人である彼、ラルゴ・アダージョには身の危険を感じざるを得ないこんな森深くに留まる度胸は皆無に等しかったのである。 再び聞こえた獣の遠吠えに肩をビクリと動かしながら、手綱を握る手により力を込めた。 思えば災難であった。 運搬料を弾むと言われてほいほい仕事を引き受けたは良いが、その通り道となるコルマ山脈はしばらく前に起きた地震の影響によって安全な山道の道を崩されてしまったと聞いたのが、つい最近の事だった。 山道が通れないとなれば残る手段は山の麓に広がる森林の中の入り組んだ道だけで、当然ここを越えるしかないラルゴにとってはそれを選択せざるを得なかったのである。 このコルマ山脈を通る場合、歩きにせよ馬車にせよ大概は山道を通るのが基本──時折森林を好んで通る変わり者も居たが──である為、当然森林の道を通るのは初めての試みであった。
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