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しばらく走ると唐突に馬の速度が緩くなり始め、それに合わせて先程まで全力で回転していた車輪も少しずつその回転速度を緩めて行った。
目を凝らして道の前方を見やると、約20メートル先といった辺りを茶色のローブを揺らしながらゆっくりと歩いていく人の姿が確認出来た。
そのままの速度でゆっくり進んで行き、その人物の隣に馬車を付けるとラルゴはひょいと馬車越しに顔を出してローブで見えないその顔に向かって呼びかけた。
「ご機嫌よう、旅のお方。こんな道を歩いて行くのも大変でしょうから、乗って行きませんか?」
――驚いた。山道が途中で崩れていた為、諦めて山の麓に広がる森林の道を歩いていたら幸運にも突然後ろから馬車がやって来たのだ。
そして、手綱を握りながら男はそんな問いかけをしてきたのである。
正直もう足が限界に近かった為、彼の申し出は願っても無い事だった。
「すまない、頼むよ」
馬車の荷台の荷物が置かれていないスペースに腰を下ろすと、馬車は再び速度を上げ始め車輪が回転して軋む音が大きくなっていく。
やはり歩きではきつい。
まさか、森林を歩く事になるとは塵ほどにも思っていなかった為準備を怠ってしまった。今後は気をつけよう。
「いや、助かったよ。ウーフェンから来たんだが、山道の道が崩れていてね。渡りに舟というのは、こういう事だな」
「あぁ、貴方も山道の道を?私もつい最近知りましたよ」
手綱を引く男は帽子変わり被っているであろうバンダナの縛り目を指でなぞった。
そのバンダナの隅の方に小さく“商業協会”という文字が縫い込まれている。
彼が商人である証だろう。
しばらく馬車の揺れに身を任せていると、男は前を向いたまま背中越しに名乗りを上げた。
「あ、私はラルゴ・アダージョという者です。まぁ、ちんけな商人でございますよ」
「俺はプロト・D・グランディオ。ビーストハンターだ。よろしく頼む」
「あっ、ハンターでしたか!それなら助けて正解でしたね!」
本来なら簡単には名乗らない。
相手が“どちらの立場”か分からないからだ。
しかし彼のバンダナに縫われている“商業協会”という文字が、此方側の人間である事を証明している。
協会などというのを作るのは、此方側の人間くらいなのだから。
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