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「ほへぇ……そんなに錆びてるのにですか?」
頭上に持ち上げた錆び付いた銀貨を食い入る様に見つめるラルゴ。
また、手綱を握る手が留守になっているようだ。
「……ラルゴは、何故ホリア教団の信者になったんだ?」
「私ですか?……私、この性格ですから争い事には滅法疎くて……平和だったらどんなに良いかと。邪悪の限り……なんて、ごめんですからね」
単純な理由だな……平和を願っているから。
……良い理由じゃないか。
「プロトの旦那は、どうなんですか?」
「機会があったら話してやるさ」
馬車は左右に小刻みに揺れながら、ゆっくりとでこぼこな林道を進んで行く。
馬車が進むのに合わせて、前方から流れてくる風で赤茶けた髪の毛と、額に巻いて後頭部で縛った白い鉢巻きが、一緒にヒラヒラと宙を泳いでいる。
プロトは風で髪の毛が反れて顔の右側が露にならない様に、数分起きに顔に掛かった髪の毛を手で整える。
「プロトの旦那、髪の毛で右目を隠してるみたいですけど何かあるんですか?」
「いや、ちょっと事情があってな……」
ラルゴは、その赤茶色の髪の毛の奥に赤く脈打つ何かがある気がしてならなかった。
しかし彼は、本能が今は触れるなと言っているような気がして、それ以上は口出ししない事にした。
しばらくすると、プロトはバッグの中から真っ赤に色付いた美味しそうな林檎を一つ取り出し、豪快にかぶり付いた。
シャクッという小気味良い音が、荷台の方から聞こえる。
林檎の甘酸っぱい匂いが一瞬鼻を擽り、すぐにまた鬱蒼と繁った樹木の独特な匂いに戻る。
「……良い天気だな」
プロトのその言葉にラルゴが顔を上げてみると、確かに空は青々と晴れ渡り白い雲がちらほらと見える、本当に良い天気だった。
「えぇ……まったくですね。……あれ?」
「ん?どうした?」
ラルゴが不思議そうな顔で、右手側に広がる森のある一点を指差している。
その方向を見ると、森の奥の方から微かに黒煙が上がっている。
「なっ!?おい!あの方角には何がある!」
「えっ!?あの方角は、確かペトラの町が……旦那!?」
「乗せてくれてありがとよ!」
プロトは慌てて馬車の荷台から飛び降りると、黒煙が上がっている方向へと向かって森の中へ入って行った。
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