2/3
前へ
/27ページ
次へ
スーパーで買ってきた、何の変哲も無い十個入りの卵。 その卵のひとつが喋り出したのはつい先日の事だ。 極貧生活を強いられている僕にとって、それは厄介事にしか過ぎなかった。 喋る卵なんて、気持ち悪くて食べられやしない。 しかし今や、その意志は限界に達していた。 残金1,652円でどうやって後、半月を切り抜けられよう。 他の卵はみんな食べてしまった。 「それでさぁ私ずっーとスーパーにいたんだけど…って、何するの?!」 喋くり続ける卵を手に取って話し掛ける。 「許せ。満場一致で、君を食べることに決めた。」 卵は必死に抵抗する。 「満場一致ったって、あんたしか居ないじゃない!やぁー!止めてぇ~」 叫ぶ卵に耳を貸さず、おいしい卵焼きになれよと祈りつつ、卵を(料理に使う)ボールの角で叩いて中身を出した。 驚いた事に、でてきたのは黄身と白身では無くひとりの小さな女の子だった。 長く柔らかそうな金髪をたくわえて…小さい顔には大人びた表情があった。 「いやぁ~!見るな見るなっ!変態~!」 突如、耳をつんざくような金切り声をあげる。 どうやら彼女は生まれたままの姿らしい。 大量の髪で隠れて、別に裸は見えなかったのだが。 そのうるささに耐えられず、僕はハンカチを投げ入れてやる。 少女はハンカチを体に巻き付け、ぶすっとした顔をしていた。 これは世紀の大発見かもしれない。 僕はすぐさま友人を呼んで彼女を見せた。 友人の返答は意外にもあっさりしたものだった。 「相変わらず何も無ぇ家だなぁ。 えっ?これが何に見えるかって? お前、割った卵にハンカチかけてどぉすんだよ。食べ物を粗末にするなよな。」 彼女は僕にしか見えないようだ。 そして、声も僕にしか聞こえないらしい。 「早く食べないと腐るぜ、調理しといたら?」 友人の言葉に敏感に反応した彼女はひたすら叫ぶ。 「食べられるっ!!襲われるー!!」 しかし、僕にはもうそんな気は無かった。 幻覚でも、人間の顔をした彼女を食べられる訳がない。          
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加