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スーパーで買ってきた、何の変哲も無い十個入りの卵。
その卵のひとつが喋り出したのはつい先日の事だ。
極貧生活を強いられている僕にとって、それは厄介事にしか過ぎなかった。
喋る卵なんて、気持ち悪くて食べられやしない。
しかし今や、その意志は限界に達していた。
残金1,652円でどうやって後、半月を切り抜けられよう。
他の卵はみんな食べてしまった。
「それでさぁ私ずっーとスーパーにいたんだけど…って、何するの?!」
喋くり続ける卵を手に取って話し掛ける。
「許せ。満場一致で、君を食べることに決めた。」
卵は必死に抵抗する。
「満場一致ったって、あんたしか居ないじゃない!やぁー!止めてぇ~」
叫ぶ卵に耳を貸さず、おいしい卵焼きになれよと祈りつつ、卵を(料理に使う)ボールの角で叩いて中身を出した。
驚いた事に、でてきたのは黄身と白身では無くひとりの小さな女の子だった。
長く柔らかそうな金髪をたくわえて…小さい顔には大人びた表情があった。
「いやぁ~!見るな見るなっ!変態~!」
突如、耳をつんざくような金切り声をあげる。
どうやら彼女は生まれたままの姿らしい。
大量の髪で隠れて、別に裸は見えなかったのだが。
そのうるささに耐えられず、僕はハンカチを投げ入れてやる。
少女はハンカチを体に巻き付け、ぶすっとした顔をしていた。
これは世紀の大発見かもしれない。
僕はすぐさま友人を呼んで彼女を見せた。
友人の返答は意外にもあっさりしたものだった。
「相変わらず何も無ぇ家だなぁ。
えっ?これが何に見えるかって?
お前、割った卵にハンカチかけてどぉすんだよ。食べ物を粗末にするなよな。」
彼女は僕にしか見えないようだ。
そして、声も僕にしか聞こえないらしい。
「早く食べないと腐るぜ、調理しといたら?」
友人の言葉に敏感に反応した彼女はひたすら叫ぶ。
「食べられるっ!!襲われるー!!」
しかし、僕にはもうそんな気は無かった。
幻覚でも、人間の顔をした彼女を食べられる訳がない。
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