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いつからか私の手にあったこの鍵。 錆びて、小さくて、何処に使うかも分からなかったけれど、私には宝物だった。 この鍵は私を素晴らしい世界に案内してくれる。 そう信じて疑わなかった。 私は昔から自分を、特別視していた所があったから。 大きな屋敷内を小さな足で駆けずり回る。 玄関の鍵、金庫の鍵、弟の玩具の鍵。 あらゆる所に、挿しては まわしてみたけれど、どれもあてはまらなかった。 その度に私の期待は膨らんでゆく。 最後に残ったのは、階下に続く階段。 私はここが怖かった。 恐る恐る暗闇に足を踏み入れたが、足場が悪く踏み外してしまう。 おかげで下まで一直線だった。 「いったぁ~」 怪我はないようで、私は尻餅をついたスカートの汚れを払うと、辺りを見回した。 部屋自体は思ったより暗くなく、明かり取りに大きな窓がひとつ、こさえてある。 そこから、私が落ちてきた勢いで埃が立ち上がっているのが見えた。 ここは祖母の書斎だった。 その祖母は最近、天国に行った。 私は祖母が大好きだったけれど、何となくこの部屋には近づきがたかった。 天井に届きそうなほど、うずたかく積まれた本の山。 見ているだけでお腹がいっぱいになりそうだ。 棚にも、所狭しと本が並べられている。 唯一の空間は、机の上だけだった。 机にはインクとペンと、原稿用紙が乱雑に置かれたままになっている。 窓も開け放していないこの部屋では、すぐに埃がたまりそうだ。 私は歩いて窓際まで行くと、体全体を使って、窓を開けた。 瞬間、鋭く、しかし涼しい風が部屋を満たす。 もう春だったが、私はこの澄んだ冷たい空気が大好きだった。 思い切り、深呼吸する。 肺の中が新鮮な酸素でいっぱいになるのが分かった。
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