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クルッと部屋に向き直ると、鍵穴がある場所を探す。
机の引き出しとロッカーと……ぐらいか。
私は首から下げていた鍵を手に取ると、机の引き出しに近づき、鍵をまわした。
…違う。
ロッカーへ歩く。
その時から、だんだんと緊張感は薄れていた。
鍵を挿して、まわす。
今まで否定され続けていた鍵は、ようやく主(あるじ)を見つけた。
同時に、一気に私の心に落胆が押し寄せる。
ロッカーの中に素晴らしい世界が続いてる訳ないと悟ってしまったからだ。
ゆっくりと開いた中には案の定、私の思い描いていた世界は無く、書類やら写真やらが突っ込まれているだけだった。
一枚の写真を手にとって眺める。
そこには幼い頃の母がいた。
やんちゃそうで、何となく私に似ている気がする。
その他にも、私の母のアルバムや表彰状など、母の成長記録がうかがえるものばかりがでてきた。
この鍵は、 母のものだったんだ。
思いながら、最後に残った小さな本のページをめくった。
本には写真が挟んであり、それは祖母と写っている弟と、私のものだった。
挟んであった本の方は、祖母が書いたものらしく、どうやらその物語には弟と私が登場するらしい。
私は胸が一杯になるのを感じた。
本の題名は『宝物』
素晴らしい世界なんて、もうどうでもいい。
きっと、この本の中の私は素晴らしい世界を冒険しているに違いない。
そしていつか、私もこの鍵を使って、私の子供、そして孫に思い出を残そうと決めた。
母にも知らせてあげなくっちゃ。
「おか~さんっ!!」
階段を駆け上がりながら私は叫んだ。
END
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