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「風船で空を飛ぶ!」 9歳の時の僕は飛ぶ事に燃えていた。 幼ながらにしては、よく凝っていたと思う。 作成図も作ったし、本で調べて風船で飛ぶにはヘリウムガスが必要だということも知った。 僕の体重では風船が全部で十三個あれば、体が浮くらしい。 こんな事になったのも僕には羽が無かったからだ。 僕たちリン族は、男は生まれながらにして羽が生えている。 女は15歳くらいから生えるのだそうだ。 しかし、僕は生まれた時も今も、全くもって羽が無かった。 おかげで周りの皆からは、からかわれたり気の毒がられたりする。 僕の後ろをついてまわる同い年の子、クーはこの風船計画の時も一緒で唯一の仲間でもあった。 二つのおさげを揺らしてにっこりするクーは、この村でも皆の人気者だ。 だから事実上、クーを独り占めしている僕は度々、年長者に目をつけられた。 学校が終わった後、一目散に丘の上に駆けていく。勿論、クーも一緒だ。 背中に背負っていた麻袋を逆さまにして中に入っている物をだす。 二人分の風船ゴム(ひとつはクーのものだ)、ヘリウムガスのボンベ……等々、必要なものは大体揃っている。 僕とクーは、二人がやっと入れる籠に入ってヘリウムガスで膨らました風船を次々と籠にくくりつけていく。 全部で二十三個目の風船をつけた時、ゆっくりと風船気球は浮き上がった。 思わず息を飲んでしまう。 僕は準備していたゴーグルをはめた。 ただの、雰囲気を出すに過ぎないが。 ゆっくりと風景が流れてゆく。 「わぁ」 その壮大さに圧倒されて、息をするのも忘れそうになる。 僕たちはつかの間、村を見晴らせるこの風景を堪能した。 「すごいねっ」 「うんっ、すごい」 お互い、顔を合わせて満面の笑みを浮かべる。 しかし、その幸せは長くは続かなかった。 降りる方法を考えていなかったのだ。 風も少しずつ強くなってきて、海の方へ流されていくのが分かる。 冗談じゃない。このままじゃ、あの青黒い海に二人共々飲み込まれてしまう。
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