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僕が青ざめている横で、クーは鼻歌なんぞを歌ってくれる。
まだ気付いてないようだ。僕が慌てふためいている間にも事態は刻々と変化していった。
今度は鳥達がやって来て風船をつつき始めたのだ。
これでは、地上に叩きつけられるのも時間の問題だ。
海よりタチが悪いじゃないか。
この時ばかりはクーも困惑していた。
僕たちは騒ぐ事もできず、事の成り行きを見守るしか無かった。
パンッ
一つの風船が割れた。
パンッ
二つ……
パンッ
次の瞬間、浮遊感を感じたが、すぐに重力で地面に吸い込まれるような感覚に襲われる。
あぁ…もう駄目だ。
僕は諦めそうになっていた…が、クーが空中で一生懸命、僕に向かって手を伸ばしつかもうとしている。
僕にしがみついても僕が飛べないのは知っているのに。
こういう時、僕は女(ヒト)の強さに感心する。
考え直した僕は落ちゆく身体で懸命にクーを引き寄せると、空よりも広く、海よりも深く願った。
《飛べぇっ!!!》
急に背中あたりがむず痒くなったかと思うと、視界の隅に白い羽をとらえた。
僕の羽だ。
それと同時に僕らは宙に浮かんでいた。
た、助かった…。
肩の力が抜けた途端、両腕に重みがのしかかる。
紛れも無いクーの重みだ。
そのまま二人で少しの間、空中に浮いていた。
何処までも高い空を昇ってゆく風船を見て、ふと、もう風船は必要ないな。と、思った。
END
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