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私は、水たまりが空を映す雨上がりの道を両手に靴を抱えて帰った。 百人力の力を手に入れた気にさえなっていた。 そこからはレッスン、レッスンの毎日で息をつく暇も無かった。 高く跳ぶ練習、身体を柔軟にしたり、持久力をつける為にジョギングもした。 主役審査の前日も、徹夜でダンスの練習をした。 心の何処かで呪いが解ける事を願っていたのかもしれない。 主役審査当日、私は赤い靴を履いて踊った。 足は驚くほど軽く、ステップは身体が覚えているように滑らかだった。 私はひたすらこの踊りに酔って踊った。 何て気持ちがいいんだろう。 私は主役の座を勝ち取った。 そして、嬉しい事がもうひとつ。 音楽が止んだと同時に私の足もピタと、止まった。 呪いはかからなかったのだ!! 私は靴を持ってその報告をしに、あの骨董屋へ向かった。 「お爺さん!あたし、主役になれたよ!……自分の力じゃないけど。それから呪いもね…」 そこで私の言葉が遮られた。 「それはただのボロ靴じゃよ」 「え?」 それしか言えなかった。 お爺さんは何処からか古い新聞記事を持ってきて私に見せた。 「そこの美術館はずっと前に火災で全焼してな、そこに飾られていた美術品や歴史物は全部焼けてしもうた。 勿論、その中にあった伝説の赤い靴もな」 「それじゃあ…」 かすれた声で私が言うと、お爺さんはこくりと頷く。 「素晴らしい踊りも、主役になれたのもみんな、お前さんの力じゃ。自信さえつければ人は何だってできる。」 今、気付いた。 私は今までずっと、不安という呪いにかかってたんだ。 その呪いをお爺さんと、この靴が解いてくれた。 私はお爺さんにお礼を言うと、再びダンスのレッスンに向かう。 公演舞台も私はこの赤いボロ靴で踊るつもりだ。 私にとっては伝説の赤い靴で。 END
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