出会い

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天保十三年(一八四二年 )江戸白河藩屋敷(現・ 東京都港区)で、陸奥白 河藩士沖田勝次郎(おき た・かつじろう)の長男 として沖田宗次郎(後の 総司)が誕生した。それ は、暑い夏の日の事だっ た。 四歳を迎えた宗次郎は両 親と死別する。 以後、姉の『みつ』が宗 次郎の親代りとして懸命 に育てくれた。 部屋の中で涙を流しなが ら、座っていた宗次郎に 中に入ってきたみつは。 「いつまでも悲しんでい たら父上や母上に、笑わ れますよ。貴方は長男だ から、しっかりしないと いけません!」 みつにとっても親を亡く したのは辛いことだ。ま だ幼い、宗次郎を養わな いといけないのだから。 しかし、そんな感情は宗 次郎の前で一切出さなか った。 立派に宗次郎を育てない といけない、そんな気持 ちがあったからだろう。 この頃からみつの指導の 下、宗次郎は家に転がっ ていた竹刀を振るように なる。 まだ四歳の宗次郎にとっ て、長くて重たい竹刀は 文字通り“振る”だけで 精一杯だった。 しかし、これが宗次郎に とっては良い方向に向か っていった様で、以前の ように両親の事を思い出 して閉じ籠ることは滅多 に無くなっていた。 「――えいっ!」 庭で時折、竹刀を振る。 過去の事を思い出した日 はそうやって、嫌な思い 出を頭の中から消そうと していた。しかし、良い 思い出もあるから“それ ”が頭から離れる事は無 い。 「ふぅ……、もう疲れた な」 「まだ、休んではいけま せん!」 竹刀を置いて休憩を取ろ うとする宗次郎を、脇で 見ていたみつが鬼の形相 で素早く止めに入る。 「姉上は……、厳し過ぎ ですよ」 と、反論しようものなら 一睨みされるのは目に見 えている。 尤も、普段は優しい姉だ から嫌いにはならない。
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