一、選択的重力の法則①

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「ち、遅刻だー」  田中家の朝はこの声から始まる。 その声の主は、田中家次男坊『哲雄』である。 「かーちゃん、なんで起こしてくれないんだよー!!」 「何回も起こしたわよ、馬鹿息子。毎朝毎朝、あんたもう中学生なのだからいい加減、自分で起きなさいよね」 「わかってるよ。それより、朝飯は?」 「本当にわかってるのかねー。テーブルの上のパンがそうだよ」 呆れた声の母。 そんな事はお構いましと、哲雄はトーストとバターを手にした。 「とりあえず、座ったら?そんな落ち着きないと、落とすわよ」 そんな哲雄を見ながら母と同じように呆れたような声を出す姉。 「そんなヘマしないよ。ふん、ふん、ふん」 哲雄は鼻歌混じりにトーストにバターをつける。 そして―― 「完成ー。ばたーとーすとー」 「哲雄!!座りなさい!!」 「うわっ」 落ち着きのない哲雄を怒る母。 驚く哲雄。 そして、哲雄の手からこぼれるバタートースト。 バタートーストはまるでスローモーションの様に回転しながら、床へと向かっていく。 手を伸ばす哲雄。 無常にも落ちていくバタートースト。 そして――バタートーストは床とキスをした。 バターのついた面が……
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