石の獣

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「えっ、落ち着いてください」 後ろから羽交い締め……というより抱きしめられてますます混乱した。柄にもなく小さな子供のように暴れる。確かにガイガイは背も高くない。同じ年の男たちの中に並べれば埋もれてしまう程。しかし自分は部族の中でも力は弱い方ではないし誰しもが避けて通る程の体格だというのに、その力に全くかなわない!! 「放せっこのばけものめっ」 「!っそんな……」 腕も足も振り回し暴れて、無理矢理引き剥がそうとすると、背後の男は情けない声を上げた。瞬間ガイガイは弛んだ手から素早く逃れてそいつを振り返う。 そして向き直った――。 そこにいたのは女族長の侍らせた男たちより、飾り立てられた彫像たちより千倍も美しい人間だった。 男のくせに少し長めの黒い髪と彫りの深い顔つき。浅黒い肌、すらりと伸びた背。 族長の元へ連れ帰れば昇進間違いないタイプ。 「貴様何者でどこから来た」 円月刀を抜きながら、ガイガイは昇進した自分を思い描いた。 豪華な食事、衣服、住居、かしづく人々。たくさんの女に言い寄られる自分――。 「私は貴方の僕」 ぷるぷると首を振り、腰に下げた長く細い黒鞘の剣を抜こうともせず、男の青い目が激しく困惑していた。両手を掲げて敵意の無いことを示す一般的表現をしながら。 「ふん、初めて逢うのに」 ……しかし何故か、隙だらけに見える姿なのに、向かっていける、いや、勝てる気がしない。 いつの間にか引いた汗。 「それでも」 「ならそこに跪いて剣を置け」 ガイガイはある程度離れた右手洞窟壁際を指し示す。 律儀な男は優雅に素直にそれに従った。何かの間違いだとしても男はガイガイに逆らう気配がない。 ガイガイはこの先にあるだろう甘い暮らしへの想像に身を浸した。   † 間違いはガイガイが部族の村へ帰ってから気付いた。 日が経つにつれ女たちどころか男までその男に一目置くようにさえなっていたのだ。棒術をさせれば炎のような激しい試合をし、剣撃は神技のように鋭く正確。 冷や汗が伝うほど。
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