20人が本棚に入れています
本棚に追加
口にして、ようやく単語が示す意味を理解する。
「…まさかっ!」
激昂したガゼットは、産婆を押しのけて走った。
枕元まできて、怒鳴ろうとした言葉を飲み込む。
小屋へ踏み込んだとき感じた強い気の源が二人、泣いていた。
小さな頭には光輪が。
だが、背中には。
「…羽がない。やはり預言の――」
「ごめんなさい」
顔を覆っていた手を下げて。
涙で濡れた頬を拭う事もせず、シェリルは言う。
「ごめんなさい。こうなる事はわかっていたのに、自分の気持ちを、偽りたくなかったの」
「……」
もう、怒る気すら失せていた。
ただ、失望と悲しみだけが、自分を支配する。
「…相手は、ナリスか?」
かつて、共に過ごした穏やかで物静かな青年。
天使長補佐として。
また、良き友人として、自分を支えてくれた、大切な者。
けれど、彼はもういない。
『一体、何の為に私たちはここに居るのだろうね』
ナリスが、失踪する前日に呟いた最後の言葉。
その意味を、ガゼットは今も探し続けている。
最初のコメントを投稿しよう!