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少し時間を遡ってみる。
「暑い……」
ほんの数時間前は大雨だったというのに、空は快晴とは程遠いが雲と雲の隙間から顔を出す太陽の光は、干からびてしまうぐらいに鋭く堪らず声を漏らしてしまう。
田舎と都心の違いか? まだ春だというのに。まっ今日は特別か。
こんな筈ではなかった、仮にも上京というものだけは。だがこんなもんだ、勢いだけで東京に来てしまった事を、本当に軽率だったと思う。
――数分歩けば、悠然と聳(そび)えるビルの陰で、倒れ込むように壁にもたれ掛かり、俺は睡魔に襲われたらしい。
「槻川啓(つきかわけい)くーん!」
その声に俺は瞼(まぶた)を開ける。人間自分の名前呼ばれれば、寝ていようがリアクションするものだ。しかし、これは可笑しい、瞳の先に美女って……夢に違いないと俺はまた瞼を閉じる。
「なっ、何でまた寝るのよっ!」
「はっはいー!? 夢じゃ……ない」
俺の両頬を軽く抓(つね)り、強制的に瞼を開かせる状況を作り出す。
瞳に広がるのは、外とは対照的で、静かかつ落ち着いた雰囲気の、どこかの一室に違いない。
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