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心配、してくれてたんだ… 胸がつまるような、喜びがわきあがった。 ちょっとした俺の行動一つに、 こうやって気づいてくれて、 心配してくれて。 「お前も、いい奴だよ」 小さくいびきをかく坂崎に、声をかけた。 急に、しん、となった部屋に、 外の雨音が響く。 なんて心地よい音なんだろう。 このまま、ずっと閉じこもっていられたら、いいのに。 このまま、ずっとふたりで。 そういえば、俺はあんまり坂崎の寝顔を見たことがなかった。 俺の方が、弱いからいつも先に寝てしまうのだ。 今日は、まだあんまり酔ってない。 俺は手を伸ばし、彼の髪にそっと触れた。 やわらかい、髪。 頬をすっと指でなぞった。 あったかい。 坂崎は、「こんな想い」でいる俺を知らない。 今、どんなこと考えてるか、知らない。 だって、友達だもんな。 知らなくたって、いいんだ。 俺は手のひらをじっとながめ、 そして、いつものように、 ぎゅっと、握り拳を作った。 …今夜は、 あいつの手、握れる。 俺は慎重に、坂崎の手をとった。 起こさないように。 気づかれないように。 そして、力をいれないで、 そーっと、握った。 大きくて、 骨ばってて、 女の子のそれとは比べ物にならない、 「男」の手。 でも、俺はそんなのが、好きなんだ。 俺は、貴族がお姫さまにするように、 手の甲に唇をあてた。 「…好きだよ」 という想いをこめて。
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