1

22/34
前へ
/119ページ
次へ
それからまた、しばらく坂崎に会うことはなく、 忙しい日々がただ過ぎてゆくだけだった。 いつの間にか梅雨もあけ、 本格的な夏が到来した。 大学も夏休みに入り、普段は俺たちのような 「休みなし」学生か、クラブや部活動に来る学生 秋の学祭の準備に追われる学生などで、 それなりに人がいる。 つまり、いつもと変わりない生活だった。 ただ、この生活にもやっと慣れて、 精神的にも余裕が生まれて、 忙しいながらも充実した毎日だった。 ただ、坂崎と会えないことが 心に冷たい風を吹かせた。 こっちから電話したりすればいいんだろうけど、 携帯を取り出して、「坂崎」の番号まで出して、 そこから「通話」ボタンを押すことが どうしても出来なかった。 「会いたい」のに、 なんでだろな。 友達のあいつには、 会っちゃいけないような気がする。 あいつは俺のこと、友達だって思ってんのに、 その気持ちを裏切っているようで、 苦しい。 汚い俺の欲望で、 あいつを汚してしまうような気がした。 あいつだって、自分とヤりたいなんて思ってる奴と 会いたくなんか、ないだろう。 「…ごめん」 いろんな意味の、「ごめん」という言葉が あいつを思い出す度に こぼれた。
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

319人が本棚に入れています
本棚に追加