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感慨深く言って、人類最大の敵の一つ、膵臓癌細胞を俺は見つめた。
「分らなかったでしょ」
「はい、全然」
「どういう風に診断すると思う?」
俺は首を横に振る。
「今までの病理医がいろんな組織をどのような病名や診断を下したか。
それを脳に画像イメージとして叩き込む、そして照らし合わせる。
もちろん、自分自身の経験が一番重要なんだけどね」
「難しくないですか?クリアカットな診断基準は無いんですよね」
同じマウスの琥珀色の膵液の入ったごく小さな試験管からマイクロピペットで少し吸い、DNAポリメラーゼ(DNA複製酵素)を加え、遠心分離する作業をした。
「膵臓や乳腺は難しい。時に神の視座が必要になる。
病理医は審判だからミスれない。
私の研究は膵液中K‐ras点突然変異の検索と、怪しい細胞自体にK‐ras点突然変異の検索をする臨床研究と基礎研究を兼ねた研究よ」
「分子病理学ってやつですか?」
「詳しいね。医学マニア?」
「正確には医学オタクです」
桑田は慣れた手つきで遠心分離器から試験管を取りだすと、90℃、60℃、70℃強と順に加熱し、酵素反応させる。
これで倍々にDNAが複製される。それを永遠に繰り返す。研究とは単純作業の積み重ねだ。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)と言う遺伝子検査である。
桑田はDNAを電気泳動して、蛍光色素で染める。
影を手で作り、手まねきする。
K-ras点は突然変異し、欠損している事が俺にも見えた。
「ほら、見えたでしょ。これなら神の視座より確実で、再現性がある。
PCRの技術と器具と検体(マテリアル)さえあれば出来ればつまり誰でも出来るはず」
「なるほど。論理的ですね」
「津田クン、オタクか。私のコスプレみたい?」
「何があるんですか?」
「KOFの春麗(チュンリー)とかかな」
「明日、お願いします。AVとバーターで」
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