裂ける

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「今着るよ」 いそいそと白衣を脱ぎ、術着を脱ぎだした。 「何で、ここで着替えるんですか!」と俺が大声でたしなめる。 何せ、術着の下は男女関係無く裸体なのだ。微妙な欲情。 「着替えちゃダメ?」 「ここ、男三人もいるんですよ。ダメでしょ」 早く、止めさせないと自分の下半身に反応が起こらないとも限らないから、俺は必死だ。 「ヤりたいなら、いつでもヤッていいのに!」 「そういう問題じゃないでしょう」 「じゃどういう問題?」 「恥ずかしく無いんですか?」 「何で恥ずかしがる必要があるの?」 「愚問でしたね。桑田先生に羞恥心があるはずないのに」 そんなやり取りの中で、桑田は春麗のコスプレに着替えた。 美人は何を着ても似合うと言うが、確かに似合うのである。 強調された胸元、スリットの入った朱色のチャイナドレス。 髪型が元ネタに違うのに、やたら合う。 俺はうっとりと見とれた。 「はいはい。新人クンへのサービスはこの辺にしてさ、プレカンファレンスを始めるぞ」 出水が声をかける。 まるで、学級委員長である。 桑田はダブルの白衣をサッと羽織るように着る。 シャウカステンにCTフィルムを貼り付けながら、あくびを噛み殺す 出水。 俺は、出水の命を受け、スクリーンを用意する。 投影機のスイッチを入れると、キラキラとした妖艶な光を放つ。 その妖艶な光は、彼女の美しい裸体の残像のようだ。 でも光が、スクリーン映し出しているのは、ドップラー・エコー(血流を画像化できるエコー)と、患者の既往歴・現病歴である。 出水がカンファレンスの準備が整ったことを確認し、プレゼンし始める。 「症例は50歳男性、近藤徹。既往歴(アナムネ)は無し。飲酒歴はビール二缶を毎日。 喫煙歴は一日平均10本を35年。 現病歴は1995年、4月10日に食後の軽微な心窩部痛、背部痛で近医受診。
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