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「第一内科の内分泌代謝内科部門(ホルモンや糖尿病・痛風など生活習慣病の内科)を希望してます」
「ふうん、消化器の俺じゃ不運だね」
「シャレですか?」
「一応ね」
「じゃ、これ君の受け持ちね」
青いカルテファイルを渡される。
アルコール性慢性膵炎(大量の常習的飲酒によって慢性的に膵臓が炎症を起こした病気)との診断である。
俺は第一内科外来に行く。
出水と俺は椅子に座り、オーダリングコンピューターに患者IDを打ち込む。
出水が診察室のマイクで、慢性膵炎の患者を呼ぶ。
酒やけした中年の患者が入ってくる。
そして、椅子に座る。
「初めまして、第一内科研修医の津田と申します。
出水先生がおっしゃってると思いますが、研修中担当医を
させていただきます」
「はい。お願いします」
「体調はどうですか」
「昨日、酒を呑んじまって。どうも、腹が痛くて」
「それは、だめですよ。酒が原因なんですから。呑んじゃ」
「分かってるんですけど、つい。先生は飲めないんですか」
「はい。弱すぎて、飲めません」
「それじゃ、分かんねぇよ」
「慢性膵炎は膵臓癌や糖尿病の危険因子なんですから、
きちんとしてもらわないと、膵臓癌になったら、助かる確率低いんですよ」
俺は医学論理で追い詰める。
「あまり(おおか)酒ばかり(べー)飲んでると、おっ死んじまうぞ」
出水は滑らかな群馬弁で、言語化出来ぬ親しみを込めて言う。
「すいません」
「お腹はどの辺が痛いんですか?」
「この辺りがシクシク痛くて」
患者は左季肋部(左上腹部)を指す。
「重たるい痛みですか?」
「はい」
俺はカルテにS)昨日飲酒。左季肋部dull Pain(鈍痛の英訳)
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