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そして、鎮痛剤に制酸剤、抗酵素剤を処方して、診察は終えた。
かくして、俺の初めての外来診察は終った。
次の患者は出水宛の診療情報提供書(紹介状)、CTフィルムが新患カルテと共に回ってきた。
出水がサッと目を通す。
診療情報提供書
桐都市立中央病院内科、高村康之
群帝大学医学部付属病院第一内科出水好文先生御中。
『患者名近藤徹。48歳男性。傷病名PK(膵臓癌の略)susp(疑いの略)1995年、4月10日に軽微な心窩部痛、背部痛で受診されました。
初診時腹部触診では心窩部圧痛、左季肋部圧痛を認めるのみであり、
柔軟(S)で(&)平坦(F)、反跳痛(はんちょうつう)(押し放した時に痛む徴候)は認めません。
腹部US(エコーの略語)では異常所見は認めませんでした。
翌日実施した上部消化管内視鏡でも異常認めず、組織を採取し、病理医に生検(組織の病理診断の略)精査を依頼しましたが、異常な細胞は認められませんでした。
腹部不定愁訴が考えられましたが、同日、鑑別のため単純・造影腹部CTを撮像したところ、2cm大の腫瘤影が膵(すい)頭(とう)部に認められました。
血液所見はすべて正常範囲でした。
当方では、悪性のPKと、腫瘤形成性膵炎の鑑別が困難な為、ご精査、ご加療のほど、よろしくお願い申し上げます』
雑な字で書かれた紹介状にはエコー写真と血液検査のデータが添付されていた。
俺はCTフィルムを読影台(シャウカステン)に貼り付け、電源のスイッチを押す。
白く蛍光灯が光り、CTフィルムを鮮明に透かす。
マイクで出水に呼ばれ入って来たのは、色白い、中年男性だった。
出水が一通り身体診察をして、CTを俺と共に見つめる。
確かに腫瘤形成性膵炎(慢性膵炎の一種)と、膵臓癌の鑑別困難な症例だった。
出水は腹部CTをじっくり読影した後、俺に問う
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