裂ける

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蓮川に改めて挨拶した俺は、光学顕微鏡を覗き込む、一人の若い女性に釘付けとなった。 椅子に坐り、熱心に光学顕微鏡でプレパラートを観察している。 ダブルの白衣の下の肌蹴た青い術着から、白いお椀(わん)型の形の整った乳房が覗く。 「あの、第一内科(いちない)の研修医の津田秀です。よろしくお願いします」 顕微鏡から顔を上げ、津田を見る。 「病理学教室大学院生の桑田杏香(きょうか)です。よろしくね」 知性を感じさせる大きな瞳、長い睫毛(まつげ)、サラサラのショートの黒髪、なだらかで白い肌、優しげな輪郭。  顔立ちと言うか、雰囲気は儚さと強さと言う、相反するものの混在を感じさせる。 年齢は二十代後半位に見える。 院生(研修医の後の医局のポスト)って事は臨床研修後だから28か29か。 俺は純粋に美人だと思う。 年齢も、顔立ちも俺のタイプだ。 目の保養になってよかったと下世話ながら思う。 出水の言っていた天才肌の病理医とはこの人か。 と、言う事は観察では無く、病理診断か? いや、ここは研究室であり、病理部では無いから患者の検体では無い。 「さて、問題です。病理医の仕事を簡潔に答えよ」 桑田の問題に俺は答える。 「一言で言えば犯人探し。術中迅速病理診断(ゲフリール)では、手術中に出た切除組織検体を急速冷凍し、薄切し、染色し顕微鏡で調べて、がん細胞と言う犯人を取り切れたか、リンパ節への広がりを執刀医に伝える。 もし、外科的辺縁(サージカル・マージン)がダメなら、もっと拡大切除すればいいし、もしOKなら 手術を終了に向かわせればいい。 病理解剖ではその人を死なせた犯人つまり、死因を確定して医学に還元させる。 また、生検(バイオプシー)(組織検査。組織の一部を切除し、採取する)、細胞診(痰や膵液など細胞を含む体液や綿棒での擦過細胞診など僅かな細胞検体で検査する事)等では組織や体液を顕微鏡でがん細胞があるか無いかで、がんの確定診断をしたり、分化型を判断するとかですか」
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