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◇
屋敷の持ち主である男は、額に脂汗を浮かべながら電話に向かって吠えていた。
「いいか!? 必ずだ!! 必ず捕まえろ!! いや、ファイルだけでもいい!! とにかく!! その小僧を殺してでもファイルを取り戻せ!! ……なに? 金だと? そんなものいくらでも払ってやる!!」
一通りの指示を出し乱暴に電話を切ると、男は町から屋敷に続く一本道を忌々しげに睨みつける。
そこにただ一つ見えるこの屋敷から遠ざかる光は、不法侵入者の乗るスクーターのものだろう。
後ろに気配を感じ男が振り返ると騒ぎを聞いて駆けつけた男の妻や、屋敷の使用人達が立っていた。
「……あなた」
「だから私は陰陽師など得体の知れん者など必要ないと言ったんだ」
そう口にした男の顔に先程までの焦りはなかった。
青ざめた妻に近づき背中をさすりながら
「心配しなくていい。 ちゃんと前もって手を打ってある」
男は微笑んでいた。
◇
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