片割れ ~ふたごのいもうと~

2/27
2613人が本棚に入れています
本棚に追加
/800ページ
リビングの中心にどっかり居座る食卓には、3年前から変わらぬ構図の光景が広がっていた。 「朔太郎、景気はどうだ?」 そこそこやり手と自称する、中年サラリーマンの親父が、わざわざと俺に新聞を渡して景気の情勢を聞いてきた。新聞なんぞ自分で読めばいいものを、こうやって社会勉強の機会を与えようと必死なのだ。 「疾きこと、風の如し」 「三十六計逃げるに如かずというわけだな」 「そんなもんだ。返すよ」 読みたくもない文字の羅列を折りたたみ、なるべく見ないように親父に返す。 別に、故事なんぞ朝から語りたくはない。だが、2、3言の故事を交わすのが、一番簡単な親父の避け方だというのも、今では熟知しているので、仕方なしに答えてやるのだ。
/800ページ

最初のコメントを投稿しよう!