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リビングの中心にどっかり居座る食卓には、3年前から変わらぬ構図の光景が広がっていた。
「朔太郎、景気はどうだ?」
そこそこやり手と自称する、中年サラリーマンの親父が、わざわざと俺に新聞を渡して景気の情勢を聞いてきた。新聞なんぞ自分で読めばいいものを、こうやって社会勉強の機会を与えようと必死なのだ。
「疾きこと、風の如し」
「三十六計逃げるに如かずというわけだな」
「そんなもんだ。返すよ」
読みたくもない文字の羅列を折りたたみ、なるべく見ないように親父に返す。
別に、故事なんぞ朝から語りたくはない。だが、2、3言の故事を交わすのが、一番簡単な親父の避け方だというのも、今では熟知しているので、仕方なしに答えてやるのだ。
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