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なるほど……それなら、もしかしたらあの力を引き出すことができるかもしれない。
いける……とクレイド自身も納得をする。
その後の言葉を聞くまでは……。
ヴィーナは立ち止まってズイッとクレイドの近くに寄り、顔を近づける。
「つまり、これより修行が完全するまでの数時間、クレイドくんの飲食及び睡眠は全て禁止とします」
「なっ……」
いきなり、そんな重大発表をされ戸惑うクレイド。
それだけハードな修行をして水すら飲めないなんて、そんな……。
「言ったでしょう?この修行はクレイドくん自身が追い込まれるほどに成功する確率が上がるって。はっきり言ってしまえば、この2つの力を修得できなくとも、あの女神の力を引き出すことさえできれば、この修行は完成される。そのためには自分を極限まで追い込む。それしかないって訳」
うすら笑いを浮かべながら、クレイドを見るヴィーナ。
この人……本気だ。
その笑みを見てクレイドの背筋が凍る。
こんなタイプの人間に出会ったのは初めてかもしれない。
「安心してね。もちろんトイレの時くらいは認めてあげるから。それにもし、そこから脱出することができたらご褒美をあ・げ・るっ」
とか言ってウインクをするとヴィーナはシェルにバトンタッチして早々に居なくなってしまった。
本当に……初めてのタイプだとクレイドは肩を落とす。
バトンタッチされたシェルもハァッと溜め息をついて、クレイドの縄をほどいた。
今は昼、まだフィルキスの修行をする時間だ。
「どうやら、もうフィルキスは自分で出すことができるみたいだね……やるかい」
「お願いします」
そう言ってクレイドは構える。
「……言っただろう。彼女はああいう人間だ。辛くなった時はいつでも無理せずに言うんだ。そうでなければ……本当に命にかかわるからね」
やさしく言ってくれて、シェルは再び座り込みフィルキスを出した。
スウィイルを出す時のフィルの流れと、フィルキスを出す時のフィルの流れをよく考え、剣の形をしたフィルキスを放出し、クレイドはシェルを見る。
「こんなところじゃ死ねないので……やりますよ」
そう言って再び走り出す。
後悔といったら、そう、さっきの昼食……もっと食べておくんだった。
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