1703人が本棚に入れています
本棚に追加
「んじゃあ行くよ~バンビちゃん」
「ちょ、バンビって言うな!」
「里奈、全部真ん中に真っ直ぐだから、ミット動かさなくていいよ」
「OK!」
「ちょ、ぜぇ~~~ったい、打ってやるんだから」
美鹿子が里奈を睨んだ。
葉月はゆっくりとしたモーションで、大きく振りかぶる。
永理を瀕死にした、あの殺人ボールが、あの日以来拝めるのかと、
ナインはドキドキしながら、葉月の投球を待った。
葉月の手を放れたボールが、すごい勢いで、飛んでくる。
美鹿子は本気で焦った。
慌ててスイングを開始するが、美鹿子が振り終わった時には、
もうとっくの昔に、葉月の投げたボールは、里奈のミットに納まっていた。
たった一球見ただけで、ナインには充分だった。
女子硬式野球部設立以来、毎年予選敗退を繰り返してきた泉城高校に、
初めての決勝トーナメント進出という、希望の光が見えたのである。
「すごぉ~~~い」
「感動~」
「すごいよ! はづきょん」
「ちょ、まだ一球だけよ」
美鹿子がみんなの方に向かって叫んだ。
「あ~無理、無理、どうせ打てるわけないんだから」
聖美が笑いながら言う。
「そんなことないわよ!」
美鹿子は口を尖らせたけれど、もちろん一球見ただけで、絶対に打てない自信があった。
最初のコメントを投稿しよう!