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妻も娘と同じような溜め息をつき、おれに言った。
「昨日、会社の定期健康診断があったんでしょ?」
おれは頷く。
「医者の先生に『ご主人のたばこを辞めさせるように。』って、念を押されて言われたわ。」
自分自身初めて言われた言葉ではないので、こんなことは慣れている。
「……たばこ、辞められない? ちょっとずつでいいから……。」
妻はおれの心境を知らないだろう。
おれも辞められるなら辞めたい。
「ああなっちゃうよ? いいの…!?」
娘がテレビを指差しておれに言った。
画面は喫煙を続けたサラリーマンが、心筋梗塞で突然死を遂げたシーンを映していた。
娘の指が小刻みに震えている。
「少し、考えてみる。」
おれはそう言って、食器を流しに持って行き、自分の部屋に向かう。
「お父さん!」
娘が珍しく大きな声を出していた。
「わたし、本当に心配してんだからね!?」
その夜、おれはたばこを一本も吸うことなく眠りに就いた。
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