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翌日、会社の喫煙室に行くまではたばこを吸わなかった。
誰も居ないその喫煙室でおれは呟く。
「葵にあんなこと言われちまったぞ。 どうしてくれる?」
それに、おれの吐いた煙が答える。
「辞めればいいじゃん。 たばこ。」
「あほ。 お前はそれでいいのか?」
煙は段々と人の形を成していく。
「あたしはもちろんヤだよ。 でもそれは真司も同じでしょ?」
おれは天井を見上げる。
いつからだろうか。この生意気お姫様と話すようになったのは。
確かおれが初めてたばこを吸ったのは中学の終わりくらいだった。
その頃から既にこいつと話をしていた気がする。
友達の少なかったおれは、こいつと話すのが楽しくて一日に何本もたばこを吸っていた。
「名前なんてあたしにはないわよ。」
なんて言ってたものだから、おれが「ケム」と名付けてやった。
「お姫様に『ケム』だなんて、ネーミングセンスないわね。」
などと言われたが、お姫様はまんざらでもなさそうだった。
「なぁ、なんでケムは自分が『お姫様』だってわかるんだよ?」
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