バス停

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『最近、良く読んでるよね。本、好き?』 声の方へと振り向くと、毎朝座席を譲る同高生だった。 『…はい。?』 『あれっ?』 『?』 『それ“一邑直夜”の“夜の展覧会ービエンナーレー”だよね?…でもそれって文庫化されてたっけ?』 学生はにこやかで親しげな表情のまま少し眉を上げ、夏蓮の手にしていた文庫本を指差した。 『あ、コレですか?まだされてないんですけど、近々されるみたいですね』 『近々?キミ、それをどうしてもう…』 『わたしの父、出版社で編集長をしてるんです。それで、一足先に手にできるんです』 『そうなんだ!』 夏蓮の説明に納得したふうに軽く頷くと、にこやかな表情のまま続けた。 『あ、ごめんね。自己紹介がまだだったよね。僕は成稜高校の2年で、坂下貴尋』 『同じ高校で1年の、早瀬夏蓮です』 『うん、知ってた』 『えっ?』 『あ、いや……普通“カレン”って“可憐”って書きがちじゃない?そこを“夏”の“ロータス”って書くのって、いいなと思って😅』 やや口早になりながら、人差し指で空に“可憐”“夏蓮”と綴ってみせた。 (あれ…?わたしそんな説明いつしたかな??) 『あ!早瀬さんって“夏”生まれだよね。名前にイロイロとご両親の思いが込められてるよね😅ステキだなー😅』 『ありがとうございます…?』 (親切なだけじゃなくて、何だか楽しそうな人だな) 少しだけ退屈だと感じていた通学の道のりが、違ってきそうだと感じたのだった。
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