抑圧

2/9
前へ
/29ページ
次へ
     **** 夕刻、つかの間の晴れ間はまた雨雲に覆われ、終わりを告げた。 小降りな雨足はは徐々に激しさを増し、数十分も経つ頃には、足を取られるようになり始めた。 「よし!」のクラブ指導担任の掛け声で、透たちサッカー部員は片付けを始めた。その内の1人、同じクラスの高橋が、ボールを手に小突く仕草で透に駆け寄った。 「早瀬、オマエ少しくらい愛想振りまけよ。減るもんじゃないんだからさ」 「何に」 「あそこのギャラリーに決まってるだろ」 高橋はそう言うと、顎をしゃくってみせた。 しゃくってみせた先にあったのは、各学年の女子生徒たちの見学姿だった。 「こんな雨の中、見に来てるんだからさ」 「俺頼んでないから」 「そう云う問題じやなくて。あいつらの目当てはお前だろ!?」 「だから?」 「だからって、早瀬………」 駆け込んだ用具室にボールを放り込むと、高橋はガックリと肩を落としてみせた。 「いいよなぁ…生まれつき何もかも持ってるヤツは。だからそのありがたみが、全く分かってないんだよなぁ…」 「…本当に欲しいもの以外あったって…」 目を伏せ、透は吐き捨てるように呟いた。 梅雨は未だ、明けそうもなかった。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加