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夕刻、つかの間の晴れ間はまた雨雲に覆われ、終わりを告げた。
小降りな雨足はは徐々に激しさを増し、数十分も経つ頃には、足を取られるようになり始めた。
「よし!」のクラブ指導担任の掛け声で、透たちサッカー部員は片付けを始めた。その内の1人、同じクラスの高橋が、ボールを手に小突く仕草で透に駆け寄った。
「早瀬、オマエ少しくらい愛想振りまけよ。減るもんじゃないんだからさ」
「何に」
「あそこのギャラリーに決まってるだろ」
高橋はそう言うと、顎をしゃくってみせた。
しゃくってみせた先にあったのは、各学年の女子生徒たちの見学姿だった。
「こんな雨の中、見に来てるんだからさ」
「俺頼んでないから」
「そう云う問題じやなくて。あいつらの目当てはお前だろ!?」
「だから?」
「だからって、早瀬………」
駆け込んだ用具室にボールを放り込むと、高橋はガックリと肩を落としてみせた。
「いいよなぁ…生まれつき何もかも持ってるヤツは。だからそのありがたみが、全く分かってないんだよなぁ…」
「…本当に欲しいもの以外あったって…」
目を伏せ、透は吐き捨てるように呟いた。
梅雨は未だ、明けそうもなかった。
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