抑圧

7/9
前へ
/29ページ
次へ
     **** 「入るよ」 声を掛けドアを開けた。 「トー…ル…?コホッ…!!」 少しだけ顔を向け、咳き込んだ。思った通り、声も出しにくくなっていた。 「大…丈夫……だか…コホッ、コホッ!!」 「喋るなって」 テーブルにトレイを置くと枕元に座り、夏蓮の頬にかかる髪をそっと払い、顔を覗き込んだ。 顔色は熱でほんのり赤く染まり、瞳も赤く潤んでいる。夏蓮は平熱が低めなため37℃でふらふらの状態に。そうして38℃で寝込んでしまうのだった。 「起きれる?薬持ってきたから、飲んで」 横たわる夏蓮の背に手を差し込み、ゆっくりと上体を起こした。 体温と細い身体の線と、夏蓮の透明感のある少し甘い香りが透の鼻腔をくすぐった。 腕の中の夏蓮はぐったりとし、透に体をあずけた。しかし透が手にした粉薬の匂いを嗅ぎ取ると「いや」と顔を背けた。 「今コレしかないんだ。飲まないと熱、下がらないだろ。ほら…」 嫌がる夏蓮の顎に手を添えて、やや強引に自分の方へと向けた。 しかしやはり、夏蓮はその粉薬特有の臭いに顔を背けた。そうして拒むように透の胸に顔を埋め、ギュッ…とシャツを掴んだ。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加