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「入るよ」
声を掛けドアを開けた。
「トー…ル…?コホッ…!!」
少しだけ顔を向け、咳き込んだ。思った通り、声も出しにくくなっていた。
「大…丈夫……だか…コホッ、コホッ!!」
「喋るなって」
テーブルにトレイを置くと枕元に座り、夏蓮の頬にかかる髪をそっと払い、顔を覗き込んだ。
顔色は熱でほんのり赤く染まり、瞳も赤く潤んでいる。夏蓮は平熱が低めなため37℃でふらふらの状態に。そうして38℃で寝込んでしまうのだった。
「起きれる?薬持ってきたから、飲んで」
横たわる夏蓮の背に手を差し込み、ゆっくりと上体を起こした。
体温と細い身体の線と、夏蓮の透明感のある少し甘い香りが透の鼻腔をくすぐった。
腕の中の夏蓮はぐったりとし、透に体をあずけた。しかし透が手にした粉薬の匂いを嗅ぎ取ると「いや」と顔を背けた。
「今コレしかないんだ。飲まないと熱、下がらないだろ。ほら…」
嫌がる夏蓮の顎に手を添えて、やや強引に自分の方へと向けた。
しかしやはり、夏蓮はその粉薬特有の臭いに顔を背けた。そうして拒むように透の胸に顔を埋め、ギュッ…とシャツを掴んだ。
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