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風邪で休み、土曜、日曜を挟んで5日ぶりの登校だった。
「あれ?お母さん、トオルは?」
「もう出たわよ」
仕事上不規則な父親はともかく、朝、いつもならあるはずの姿がないことに気付き訊いた夏蓮に返ってきた言葉は、シンプルだった。
「もう?クラブの朝練かな?」
「さあ。何も言わずでちゃったから。はい、ちゃんと食べてね」
「ありがとう」
カリカリに焼かれたベーコンがトッピングされた、彩りも綺麗なたっぷりの野菜サラダとトーストにミルク。それと小さめなチーズオムレツに、ホワイトとピンクグレープフルーツのヨーグルトがけの皿が並べられた。
「嬉しいけど、朝からこんなには食べられないかも😅」
「ダメ。一昨日までちゃんと食べられなかったんだから、今朝はコレ、全部食べるのよ。“食べ終わらなかったら行かせるな”」
「?」
「…って透が言うんだもの。だからちゃんと食べてね🎵…悔しいけど、透はお母さん以上に夏蓮ちゃんのこと心配して、熱で寝込んじやってる間色々してくれたの。だから今度はお母さんに夏蓮ちゃんのこと、させてね」
「うん。ありがとう」
嬉しそうな母親にそう言うと、夏蓮はマグカップに手を伸ばし、口に運んだ。
(あれ…?何だろ…??何かひっかかってるんだけど…何だっけ…。何か大切なことの気がするんだけど……)
夏蓮は思い出せないもどかしさを飲み込むように、ミルクを飲み込んだ。
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「おはよう。もう大丈夫?」
「おはようございます、坂下センパイ。はい、もう大丈夫です」
繰り返す、いつもの光景。老夫人に席を譲った後、坂下がいつになくにこやかに話し始めた。
「先週の水曜日、乗ってこなかったからどうしたのかな、って思って教室を覗いてみたんだ。そうしたら早瀬さんのクラスの子が風邪で休んでる。それから…自宅の電話番号を教えてくれたんだ」
「あ、母から聞きました。ありがとうございます」
「出来ればお見舞いに行こうと思ったんだけど、返って気を遣ってもらったみたいで、結局いけなかったんだけど」
「気を…遣ってもらった?って??」
「あ…れ?聞いてない?都合も訊かずお見舞いは行けないから、金曜の夜、もう一度電話したんだ。そうしたら…」
ふと、その夜のやり取りが思い返された。
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