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『見てみて…!噴水があるよ、トオルちゃん!』
中庭中央にある噴水は、リズミカルに飛沫を上げていた。
水を含んだ風も気持ち良く、初夏の日差しに夏蓮の淡く柔らかそうな灰茶の髪が光に透けていた。その瞳の色素も淡く、夏蓮は眩しそうに瞳を細めると、透に振り返った。
しかし対照的に、透は変わらず黒く濡れたような瞳を夏蓮に向けている。
(わたし…何かトオルちゃんを怒らせるようなことしたかな?……ううん、何もしてない…。してないっていうか、何も話してないし……。なのになんでこんなに“にらむ”の?なんでこんなに怒ってるみたいに見るの?なんでこんなに嫌われちゃったんだろ………)
噴き上げる噴水とは逆に、夏蓮のキモチはどんどん落ち込んでゆく。
どうしたら良いか分からなく不安になった夏蓮は、大きな窓ガラス越しに父親の姿を探した。
父親の姿を見つけ走りだそうとした夏蓮だったが、穏やかな笑みを浮かべ楽しそうに話す2人の様子に、幼いながらに踏みとどまった。
(お父さんすごく楽しそう…。あんな風に笑うお父さん、久しぶり見た…。それにお母さんになるユカコさん…すごくやさしくて好い人だし……)
夏蓮は意を決し、透へと向き直った。
『トオルちゃん…』
パン!!
噴水が短く吹いた。
『わたしのこと…』
消え入りそうに言いよどむ夏蓮の背を押すように、噴水が大きく吹き上がった。
『キライ?』
『ーーーーーー…』
『…トオ』
『ーーオマエなんて大嫌いだ!!』
『!?』
「ーーどうしてあの時、あんなに嫌われちゃってたんだろ…」
窓を開け、水を含んだ朝に呟いた。
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