第一章(4)アインさんと謎の美女と戦車男

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下卑た笑みを浮かべる一人の男が、俺の歩みを止めた。やはり簡単に逃がしてくれるほど、奴は…………『白鴉〈ホワイト・クロウズ〉』首領アザル・オルトマンは甘くはないか。 この薄暗い路地裏でハッキリと目立つ真っ白な短髪、今にも迷彩色のタンクトップがはちきれそうなほどの鋼のような強靱な筋肉をまとい、腰にアーミーナイフの入ったホルダーがついたブカブカの黒いズボンを履く軍人風………いや本当に軍人だった男。15年前、俺と同じ特殊部隊で『戦車〈チャリオット〉』のアルカナを授けられた男。機人兵も与えられず、戦闘技術も低く、諜報任務にばかりついていた俺にとって憧れだった男。かつては非常に信頼していた男。 「久し振りだねぇ、ハーミット。十数年ぶりになるのかな」 アザルは白々しく俺に対して親しく語りかけてくる。 「相変わらずムキムキマッチョマンだな、チャリオット」 俺もまたわざとらしくアザルに親しく返す。更に俺は付け加える。 「体鍛えてばかりもいいが、もう少し部下の世話もしておいた方が良かったな。こいつ等が低レベルのフ××キンバカのおかげで、仕事が楽に終わったぜ」 「………………それはお前の腕が良すぎるから故だ」 「そりゃどーも」 奴はそう言いながらも確実に俺との距離を狭めている。まるで俺をどこかへと追いやるかのごとくに………………。生憎ながら、俺は奴から放たれる圧倒的な威圧感に押されるばかりだった。口の方では軽いジョークを交えた会話をしつつも、実際体の方はそれとは裏腹な反応を示している。体にまとう服は次々と噴き上がる冷や汗で張り付き、心臓の鼓動も次第に早く、不安定になっていく。奴の放つ邪な殺意が、俺の精神と身体を犯し、喰らい、陵辱し、蹂躙してくるのを感じる。 そして、お決まりのオチが俺の身に起こる。いつの間にか行き止まりの場所まで追い込まれていた。前門の虎、後門の狼。もう逃げ道が見あたらない。後ろはビルの壁、前には『戦車』アザル・オルトマンが………………いや、もはやアザルだけではなかった。10人………いや、20人程の『白鴉』のフ××クマン共がアザルの後ろにそびえ立っていた。つまり、これで完全に退路を断たれたというわけだ。 やがて俺の背中と後頭部がビルの壁に触れる。アザルが俺に迫ってくる。俺の頭を挟むように壁に両手を突き、俺に強面の顔を近づけて囁く。
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