憂鬱

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「隣空いてますか?」 突然声を掛けられ、怪訝そうな顔をした女がこちらをゆっくりと向いた。 そして、品定めをするかのように、俺を上から下まで素早く見ると 「……空いてますけど」 けだるい返事をして、またすぐに前を向いた。 まるで俺には興味が全く無いという素振りは、いつもなら闘争心が掻き立てられるのだが…… 今の俺にはむしろ調度良いくらいだった。 あの席にはもう戻る気がしなかった……正直戻れなかった俺は、最初に目を付けていた女の隣に何とか落ち着く。 いつもの自分を取り戻したくて、俺はどうやってこの女と一夜を過ごそうか……その事に集中した。いや、集中しようとしたが、背中から感じる健志さんの気配ばかりに気を取られている。 「お連れの方はいいんですか?」 中々話し出さない俺に痺れを切らしたのか、女が不意に言葉を発した。 「……いいんだ」 俺は短く答えると、そのまま黙り込んむ。 折角女がくれたこのチャンスも、今の俺には魅力のカケラも感じられなかった。
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