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八時少し前に店には着いたのだが、俺は中々店内に入れずにいた。
会いたいのに……
会いたくない……
いざ店に入ろうとすると、緊張して体も手も動かない。
ただ会って飲むだけの行為なのに……俺はまるで告白でもするかのように緊張していた。
「亮君、早いな!」
突然掛けられた声に、俺は驚いて振り返った。
やっと会えた健志さんは、あの日と同じく意地悪な笑みを浮かべてそこに立っていた。
引き攣った顔を何とか動かして、俺は無理矢理笑顔を作る。
「こんばんは」
健志さんは軽く頷くと、そっと俺の背中を押して、店の中へと導いた。
店内に入るまでの短い間だったが、背中に添えられたその手は、温かくて愛おしくて……
全神経を背中に集中させて、俺はその感触を記憶しようと努めた。
健志さんに従い、店の一番奥の席に俺達は座る。
「兄貴……遅いですね」
会話が続かず、話に困った俺は時計を何度も気にしていた。頼みの綱の兄貴は、もう十五分も遅れている。
電話でもしてみようかと、携帯を取り出したが……その手は健志さんの手によって止められた。
「毅なら来ないよ」
健志さんの予想外の言葉に、俺はそのまま固まってしまった。
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