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「この前の事、亮君に謝りたくてさ。毅に頼んで呼び出して貰ったんだ」
俺は驚いて、健志さんを凝視してしまっていた。
謝りたい?
この前の事を……
「どういう事ですか?」
健志さんはすまなそうな顔をして、俺に話し始めた。
「この前は飲み過ぎて、亮君に絡んでしまったから……ずっと悪い事したって気にしてたんだ。あの日、恋人ともちょっと喧嘩してたし、正直ムシャクシャしてた。だから亮君の視線が変に気になってしまったんだと思う。俺達を珍しい物を見るような、馬鹿にしてるような視線に感じて腹が立ったんだ………だからって、無理矢理あんな事して悪かった。亮君は俺達とは違うのに……」
この人は狡い。
俺の唇を塞いだその口で……俺を酔わせたその甘い声で……
あの甘美な時間を、無かった事にして欲しいと告げている。
その言葉がどれだけ俺を傷付けるかなんて、彼は想像もしていないだろう。
俺は暫くの間、下を俯き黙ったままの健志さんを見つめていた。
あなたが望むのなら……俺はあなたを許す。
あなたが望むのなら……
無かった事にするふりだって俺は出来る。
そう思う事すらこの人は知らないのだ。
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