接触

6/16
前へ
/251ページ
次へ
「そうだったんですか!気にしないで下さい。俺もこの前は飲み過ぎて、途中の記憶が曖昧なんです」 気を抜くと崩れ去りそうな自分を隠すかのように、俺の口は饒舌に嘘を並べる。 「だから、健志さんが何を謝りたいのか……正直思い出せなくて。こちらこそ失礼をしたのではないんですか?」 忘れてなんて…… いっそ忘れられたらどんなにいいか。 だが、俺の言葉に明らかに安堵している健志さんに……本心なんて言えない。 「覚えてない……か。いや、亮君は失礼な事なんてしてないよ。俺が悪いから」 「健志さん達を見てしまっていたのは……多分羨ましかったんだと思います。兄貴から聞いているとは思いますが、俺は人を深く愛するって事が苦手で……だから」 違う!隣に恋人が居たなんて気付かないくらい、あなたしか目に入らなかったんだ。 「俺が勝手に勘違いしてしまったから、やっぱり謝らせてくれ!亮君本当に悪かった!」 健志さんは俺に深々と頭を下げた。 『気にしないで下さい』と俺は健志さんに何度も繰り返して告げてはいたが、頭では別の事を考えていた。 やっと愛しいと想える人に出会えのに、俺の想いはこの人には届かない。 そんな現実なんて知りたくなかった。
/251ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9659人が本棚に入れています
本棚に追加