接触

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健志さんは謝った事で気持ちが晴れたのか、それからはお酒を飲みながら、楽しそうに兄貴との事や仕事の話、恋人の話などを俺に話してくれた。 彼の話はどれも面白く、俺はつい話に引き込まれて熱心に聞いていた。 普段は余り口数の多い方ではないが、健志さんのペースに巻き込まれ、会話が弾む。 楽しくて、嬉しくて、俺達の会話は尽きなかった。 健志さんをもっと知りたくて、もっと近付きたくて……… だが、知ってしまえば、もっと彼を欲しくなる。 だが、その一方で、 彼を独占出来なくても……触れられなくても…… ただの友達でもいいから側に居たいと願う自分がいた。 会話の合間にチクチクと心が痛んだが、俺は気付かないふりをした。 すっかり気を許した健志さんが、俺を『亮』と呼んだ時、生まれて初めて自分の名前が愛おしく感じた。彼の口から俺の名前が零れる度に、それは素敵な響きとなって耳に記憶される。 手に入れる事だけが全てではないんだ…… 痛む心にそう言い聞かせて、俺は健志さんと友達としての道を選んだ。
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